「フットフォールト!」
目立ちたがりのラインズマンにまたか言うようにと軽く一瞥しセカンドサービスのボールを受け取る。
額にかかるブロンドを吹き上げながら彫像を連想させる独特のフォームで無理やりボールを押さえ込むようにサーブする。
ややシュート掛かった順回転のボールが相手のバックにハネあがり、
すべるようにブロンドをなびかせネットについた彼の足元へ
良くコントロールされたリターンが返ってくる。

彼を世界ランキング№1に押し上げた最大の武器は
その体格を利用したビッグサーブでも居合い抜きのような世界一美しいバックハンドでもなく
ファーストボレーの技術だ。
殆どののサーブアンドボレーヤーは足元にリターンが返ってきただけで緊急事態。
ネットより低い位置でのボレーをペースを失わず正確に相手コート深く突く事はホントに大変難しい骨の折れるプレイなのだ。
彼はビッグサーバーだがボリスベッカーのようなフラット系のビッグサーブではない。
したがってコントロールされた足元へのボールへの対応が多くなる。
そう苦手だとか難しいなどといってられないのだ。

いつものように辛抱強く相手のバックサイドに深いファーストボレーを送り込む。ed3.jpg
そしてコートの中央へ戻らずその場でステップを踏み、
クロスのケアをせず狭いストレートを待っている。
先ほどから何度もストレートのダウンザラインでエースを奪われている。
裏の裏をかき相手のウイニングショットをまたしても待ってる。

彼はその美しい容貌からは想像もできないほど頑固で強気なメンタルをもっている。
きっとゲームを組み立てるセンスではベッカーやレンドルなど足元にも及ばないはずだが、
彼はあくまでどんな時でも相手のバックにサーブを入れファーストボレーで追い込み次のボレーをオープンコートに突き刺す。
そしてエースを取られれば何度でも同じところへボールを送る。

予想通りのストレートのダウンザライン。
彼は世界一鋭くて美しいバックハンドボレーを何事も無かったかのようにオープンコートに突き刺した。

ボールボーイからボール受け取りなが戻ってくる彼はうつむきながら首を横にふり、
悲しそうな目をして額にかかったブロンドを吹き上げる。
そして呼吸を整えると
ネットをはさんだイワン・レンドルに目をやった。

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彼の名前はステファンエドバーグ。
悲しい目をした世界一シャイで美しいチャンピオンだ。







※ 本文中のプレイ内容はすべてフィクションです。