僕らはスタジオでの練習を終え、
週末に向けて二三の確認をし友人と駐車場へと歩き始めた。

梅雨の湿った空気が汗ばむ首にまとわりつく。

ここは地方都市の商店街だが
午後10時過ぎに人影がなくなるような僻地ではないはずだ。
それにしても先程から誰ともすれ違わない。

商店街も息を潜め、まるでお店や建物を残したまま
人だけが神隠しにあったかのように人の気配が無い。

そのうち一軒だけ明かりの点いたBarを見つけたがシャッターを半分閉めている。
中から時折悲鳴のような声や大きな溜息がモレてきた。

中で何が行われているのかという疑問より人が僕達の他に人間がここにいる事に少し安堵した。

車を走らせている途中も時折遠くから見える対向車のヘッドライトにホッとする。

僕はハンドルを握りながら徐々に大きくなる不安を隠せずにいた。
一体今どんな状況なのか?
既に僕達はどうしようも無い状況に追い込まれているのではないのだろうか?
そう言えば昼間すれ違う人々が呪文のように囁きあっていた「ジュージカラ
という言葉となにか関係があるのか?

あせる気持ちを抑えながら僕は集合住宅の駐車スペースへ車をとめエレベーターホールへ急ぐ。

ぎゃー!!

何処かの窓からまた悲鳴が聞こえた。
もう一刻の猶予も無いのかもしれない。

僕の住む7階までエレベーター内での時間がもどかしい
エレベーターを降り自宅のドアまで小走りで急ぐ
乱暴な手つきでドア開け靴を蹴るように脱ぎ
マシンガンのように僕はこうたずねた。

「どう?」
今、ナン対ナン?
「どんな感じよ?」

ふぅ、残念だったねぇクロアチア戦。
試合後インタヴューのヒデろう君はかつてない程怖かったよね、
めずらしく声自体が大きかったし。

ちゅうか10番なんだよ!?
個人攻撃は良くないと思うが10番は言われてもしかたない番号のはず。
マジでキミには点の匂いが感じられない。
あのショボイリーグでは元気一杯やってたくせにやってたくせに。

まぁあれだ、かーなり予選リーグ突破の可能性は低くなったけど
ほら、サッカーだから。
やってみなきゃなにがあるかワカンナイからさ。
昨日で終わりにならないで良かったって事だけは言えるよね。

それにしても溝の口、10時過ぎだっていうのに街が眠ってたよ。
本当に少し怖かった。